「潔く柔く」は1人の男子高校生の死と、それを取り巻く人々のそれまでとそれからの時間と気持ちを繊細に描いた漫画です。今回はこの作品について記事を書きたいと思います。
潔く柔くについて
作者:いくえみ綾
巻数:全13巻
構成
始めはオムニバスで描かれた物語の登場人物の人生が、いつしか交わり、新しい物語が始まるという構成になっています。
感想
いくえみ綾と言えば、「いくえみ男子」という単行本が出版されるほど、魅力的な男子(あえて男子と言わせてください)を描かされると右に出る者はいないと言っても過言ではありません。
「潔く柔く」には、そんないくえみ男子達が何人も登場し、夢中で最初から最初まで一気に読破してしまいました。読後には、少しのせつなさとほんのりと胸が温かくなる思い、そして圧倒的なときめきが。
こういう男子が自分の周りにもいればいいのにな、と思わずにはいられません。
例えば、小学生の頃の交通事故の後遺症で小指が動かなくなった赤沢禄。祖母の体調不良をきっかけに、小学生時代を過ごした町に再び帰ってきます。
毎日禄の為に大量のおやつを拵える祖母と、実はそんなに甘い物が好きではない禄。母親から「無理して食べなくていい」と言われても、毎日必ず口に入れる禄・・・
こういう、現実にもいそうな(いや、きっといる)男子の優しさが各所にちりばめられています。普通の男子だれけども、やっぱりいくえみ男子!と言うしかない絶妙な描き方が素晴らしいのです。
そしてもちろん、いくえみ男子を輝かせるのが周りの女性陣たち。
こちらも、特別美人ではない、とりたてて人より優れたところがあるわけではない普通の女の子たちなのです。それなのに、とても可愛らしく、愛さずにはいられない存在!
彼女たちの嫉妬や苛立ちや悲しみ、せつなさも、わかるわかる!と共感できるものばかり。まるで自分が「潔く柔く」の中に生きているかのような錯覚を起こしてしまいそうになります。
この漫画を読んでいると、人間は複雑だけど、もっとシンプルで良いんだ!と気付かされます。好きなものは好き、良いものは良い。悲しい時は悲しいし、孤独な時はそのまま孤独を受け入れればいいんだ、そんな気持ちにさせてくれます。
少し前に「みんな違ってみんないい」という言葉が流行ったことがありました。当時は、なんだか中身の伴わない陳腐な言葉に思えたものですが、この作品を思い返すと、その言葉がすとんと腑に落ちる感じがしました。
手のひらに収まるコミックスの中で、無限に拡がる希望を感じることができる作品です。