低年齢向けの作品って、大人になってから読むと、意外と付いていけないことってありますよね。私も小学生時代は遥か昔になってしまったので、そういうところがあるのです。
そんな中で見つけた、大人の私が読んでも楽しめた「小学6年生の女の子が主人公の話」をレビューしたいと思います(※他に、短編「くちびるください」も収録されています)。
小さな恋のでっかいメロディについて
作者:木村恭子
巻数:全1巻
簡単なあらすじ
主人公の名前は環名、小学6年生の女の子です。
同学年の男子の幼さに呆れつつ、『私たち小6だけど もう小学生の頭じゃない』と感じる日々。
そんな環名のあこがれの人は、環名の母が経営しているバーの店員、凛太朗21歳です。
ふとしたことから、気に食わないクラスの男子、渋谷に凛太朗への想いを悟られてしまった環名でしたが――。
子供も大人も楽しめる
物語の中心は、環名と渋谷の2人です。そして、ストーリーの本筋となっていくのが、環名の凛太朗への想いと、それを通じての成長なのです。
この作品は雑誌『りぼん』に4回にわたって掲載されましたから、基本的には低年齢層向けを意識して描かれた作品と言えます。
絵柄などにもそれは顕著で、今どきの女の子に喜ばれそうなキラキラ感のある絵柄となっています。
環名の行動や言動には、年相応の未熟さ、幼さと共に、彼女なりの懸命さ、一途さがあふれており、対象年齢の読者は楽しく読むことができるのではないでしょうか。
一方、大人の1人である私から見ますと、環名の行動の一貫性や、物語の展開に見える「誤魔化した感」のなさが、魅力的に映ります。
つまりは、主人公たちを同年齢の読者から見た場合だけではなく、上の年齢層の立場から見ても、キャラクターとして成立しているように見えるわけです。
また、全体にあざとさなどが薄い感じがするのも、好印象と言えます。
環名に関わってくる渋谷は、冷めた目線で環名にブレーキをかけることの多い毒舌系男子なのですが、実はそれは渋谷自身の家庭環境から生まれたもの。
両親の不倫などで家庭が大変な状況になっていて、そのため、恋愛に対して否定的な面があるのです。
ですが、あえてその状況を克明に描くことなく、悟った感のある渋谷の言葉などを通して読者に伝えているところも、この作品の世界を壊さないという意味では、よい判断かと思います。
ここまでご紹介してきましたように、この作品は、「ひたすら主人公の気持ちや言動だけを追いかけて読む」という読み方でも楽しめますし、「より周りが見えるようになった大人が、自分たちより年下な子供たちの世界の話を読む」という読み方でも楽しむことができます。
また、主な登場人物は、思いがすれ違うことがあっても、基本的にはお互いのことを思い合っているというのも、評価したいところです。
こんな方におすすめ
子供の方だけでなく、今時の子供を主人公にしたさわやかな成長物語を読んでみたいという大人の方にもおすすめです。