行けども行けども砂の広がる世界。そんな過酷な砂漠の世界というは、日本人にはあまり馴染みのない景色かもしれません。しかしそんな砂漠の世界に、どこか神秘的な雰囲気を感じたり、惹かれる人も多いのではないでしょうか。
「砂の下の夢」は、そんな私達が無意識に抱く“砂の世界”のイメージを幻想的に、それでいて過酷な命の教訓でもって魅せてくれる作品です。
砂の下の夢について
作者:
巻数:全2巻
あらすじ
砂漠の広がる過酷な世界。そこを旅して生きていく人々にとって、オアシスはまさに生命線ともいえる場所。
そのオアシスを作るのが、「ジャグロ族」の使命。彼らは、死者の魂をオアシスにするという不思議な力を持った一族です。
ですが、彼らの仕事はオアシスを作るだけではありません。
ジャグロの一族である“フェイス”と“チャリティ”は、砂漠を旅しながら「耐久年数を終えたオアシス」、あるいは「なんらかの問題の生じたオアシス」を調査し、時にはこれを解体していきます。しかし、中には解体に納得のいかないオアシスの魂もいて…?
この作品の見どころ
物語の進行役は、ジャグロ一族のフェイスとチャリティ。この二人は熱々のカップル。常に二人で行動しており、ほぼ全話に登場します。ですが、話の彼らが主人公かというと少し違います。
このマンガの主役は、ほとんどが「オアシスの核となった人物の魂」か、フェイスとチャリティに同行する「見届け人」です。
「見届け人」とは、オアシスの解体に付き添う、ジャグロ族ではない一般人から選ばれます。見届け人は各話違う人物が老若男女問わず登場し、中にはもう砂漠を旅するには困難な老人が旅に同行することも。
一見オアシスとは無関係なように見える見届け人の人々。しかしながら彼らは時に、オアシスの解体を拒む魂を諭す役割を担ったり、あるいはオアシスの核である人物と生前密接な関係にあった…という場合もあります。
どんな人々にとってオアシスは必要なのか。そんな大切なオアシスをなぜ解体しなければいけないのか。可愛い、特徴的な絵柄に反し、このマンガで語られるそれらの理由はとても切迫としたものであったり、人間の誰もが持っているであろう生々しい欲望や、罪悪感が絡んできます。
ファンタジックでありながら、その描写はリアリティがあります。
飲むのにも食べるのにも困らない、楽園のようなオアシスを居座るのはなぜ罪なのか。
旅人を歓迎する美しい花のオアシスは、なぜ解体しなければいけなかったのか。
旅人を拒んだオアシスは、なぜその人物を助けなかったのか。
なぜその人の魂は、オアシスになったのか。
これらの問いの対する、このマンガの答えは、命というもの、人の幸福について考えさせられます。
個人的には第二巻の五話(最終回)の「海のオアシス」というエピソードが、視覚的にも一番幻想的な話でありつつ、同時に特に残酷で美しい物語だと思います。ぜひこの回は読んでみていただきたいです。
また折を見てはさまれるフェイスとチャリティのラブラブっぷりも見ててとても微笑ましいのですが…なんとこの二人、両者共に最後まで作中で性別が明らかになりません。
これは同性婚可能である&一定の年齢になるまで性別を明かしてはならない、というジャグロ族の風習が絡んでいるからなのですが、二人とも中性的な容姿であるため他の人からは全く判断がつかず、男性から見れば美女二人に、女性から見れば美男子二人に見えたりします。
この点はあるいは読者から好き嫌いが別れるかもしれないポイントですが、逆に読んでる人の好きな風に受け取ってよいということですので、その辺りを想像するのも楽しいですよ!
こんな人におすすめ!
人の残酷さと、美しさを両方見たいという方。
一概に善悪で分けることのできない複雑な人間模様を、幻想的な物語で読んでみたいという方に、特におすすめです。
あとはBL(ボーイズ・ラブ)でもGL(ガールズ・ラブ)でもどちらでもいいよ! という方はより楽しめると思います(笑)。
巻数も少なく、全話一話読み切りの作品ですので、どこからでも読むことができます。是非一度、手に取って読んでいただきたいシリーズです!