今回は、1978年から1979年にかけて「週刊少女コミック」に掲載された、少女マンガ界の巨匠「萩尾望都」さんの名作「スター・レッド」をレビューしたいと思います。
スター・レッドの巻数について
フラワーコミックスでは「全3巻」、小学館文庫と電子書籍では「全1巻」で刊行・配信されています
簡単なあらすじ
物語は23世紀。ドームに覆われた都市、ニュー・トーキョー・シティに住む美しい少女「星(セイ)」が主人公です。
彼女は火星で生まれた火星人で、現在は地球に住んでいるのですが、火星人特有の赤い瞳と白い髪と超能力のような不思議な力を秘めており、いつか故郷星である火星に戻りたいと思っていました。
セイは、ひょんなことから出会ったある青年の助けで、憧れの火星に連れて行ってもらえることになるのですが、その頃ちょうど火星では、大きな災いが起きようとしていました。災いを予見したセイは、辺境地で暮らす火星人を探しつつ、火星と火星人を災いから救うべく戦い始めるのですが・・・。
萩尾ワールドと少女マンガテイストの融合が見どころ!
この作品は上述の通り、描かれてから40年近くが経過していますが、現在でもこれくらいうまくまとまったSF少女マンガはないのではないかと思うほど、ストーリー展開が見事で面白く、最後は複線が綺麗に回収されるため、スッキリとした読後感が味わえます。
著者である萩尾望都さんは、これ以降も様々な媒体でSFマンガを描いていらっしゃいますが、視聴者ターゲットは男女双方の、少女マンガっぽさの薄い、やや硬めの作品が多いのです。
しかしこの「スター・レッド」は「週刊少女コミック」という連載誌のテイストを受けた、少女マンガテイストの濃い作品になっており、他の萩尾さんのSFマンガとは異なる少女マンガらしさや、他作品には見られないヒロイン性を見ることができます。
少女マンガテイストが色濃いとはいえ、萩尾さんが得意とする、スケールの大きな独特の未来の時代背景やキャラクター設定は盤石で、一般的な少女マンガの領域を遥かに超えた綿密さです。目まぐるしく行動を起こすヒロインの判断や、それを取り巻く様々な情勢変化、脇役の人物描写にも無理がなく、SFなのにツッコむ隙が無いほど説得力があります。
既に古典という分類になりそうな古いマンガではありますが、現在でも一級の作品であり、読み返すたびに心に響く喪失感と、物語の結末からくる不思議な満足感を得ることができる作品です。
こんな人におすすめ
このスター・レッドのヒロイン「セイ」は、強い超能力をもった美少女という設定なのですが、ただそれだけでなく、呪われた辺境星・火星の生まれという悲しき運命を背負っています。
物語の序盤に、ヒロインを助ける青年エルグが登場しますが、エルグはセイの悲しい運命に自分の境遇を重ね合わせ、同情し、次第に彼女の行動を手助けし始めます。そこには単純な恋愛とは少し違う、運命的な絆も生まれます。
近未来のSF物語ではありますが、現代の我々にも通じる複雑な感情の揺らぎも描かれ、大人になってから読むと、また違った視点で楽しめます。主人公が運命に立ち向かうというストーリーですので、本来のターゲットは女子の小中高生ですが、骨太のSF少女マンガがお好きな大人の方にも読んでいただきたい作品です。