読めば読むほどそれぞれ読者の解釈が深まる、そんな作品「下弦の月」。サスペンス要素がありミステリアスな世界観が強く、少女漫画としては異質な作品だと思います。少女漫画としては少し珍しい、矢沢あいさんの「下弦の月」を紹介したいと思います。
下弦の月について
作者:矢沢あい
巻数:全3巻
あらすじ
家族仲が良くなく、居心地の悪い家に帰らないよう街を彷徨っていた望月美月は、ギターで切ない音を奏でるアダムと出会います。
ある洋館で二人は一緒に暮らし始めますが、下弦の月が輝くある夜、アダムのもとに向かっていた美月は事故に遭ってしまいます。
同じ頃、事故に遭い昏睡していた小学生の白石蛍は、夢の中で柵しかない場所の中で佇む美しい女性と出会います。
昏睡状態から目を覚ました蛍は、退院後、廃墟から聞こえるピアノの音に引き寄せられ廃墟の中へと入っていきます。そこには、アダムという恋人以外の記憶がない夢で出会った美しい女性、美月がいたのです。
他と違う点
映画化にもなっている作品なので知っている方も多いかもしれませんが、ミステリアスで幻想的な世界観の中進んでいくストーリーは、とても独特で引き込まれてしまします。
この作品の良さでもありますが、私は他の少女漫画と比べて少し違う、異質さがある作品だと思っています。
多くの少女漫画は、紆余曲折を経て主人公と主人公の想い人の思いが通じ合い、晴れてカップルになりハッピーエンド、というストーリーだと思います。
しかし作者の矢沢あいさんは、最後の最後まで曖昧さを残していたり、はっきりと表現しない部分があることで、読者の解釈の幅を広げるような作品が多いように思います。その一つがまさにこの作品なのです。
張り巡らされた伏線が最後には回収されていきますが、それでも最後には、これはハッピーエンドと言えるのだろうか、あの時こうだったら、と新たな思いや考えを読者に与え巡らせてくれるのです。
この作品の幻想的な世界の中で交わっていく愛の深さには涙なしでは読めません。明るいストーリーとは言えませんが、単行本は全3巻のため購入のしやすさや読みやすさがあります。少し違った少女漫画を読んでみたいという方にはぴったりの作品だと思います。
この漫画に出会って
ミステリアスで幻想的な雰囲気の中に、サスペンスや恋愛要素が盛り込まれた独特なストーリーですが、繰り返し読むことで私自身の解釈が深くなっているような気がしています。
輪廻転生した女性、月の周期によって現世を過ごすことができた男性、出会うはずのなかった二人が出会い愛し合う。スピリチュアルな要素もあり、設定が苦手な方もいるのかもしれません。
それでも「もし生き返ることができるのなら、もう一度あなたに会いたい」「死んでもあなたを愛し続ける」そんな二人の愛の深さを幻想的な雰囲気と合わせて感じてほしいと、読んだことのない人におすすめしたくなってしまいます。
数多くある少女漫画の中で、私が生まれて初めて少女漫画を読み涙を流したのはこの作品でした。初めてこの作品を読んだときは学生で、考えが稚拙で理解できない部分も多くありました。しかし年を重ねる度にそれまでの考えが変わり、自分なりに理解できるシーンも増えました。
今でも考えさせられることが多くありますが、この作品を通して自分の成長をも感じてしまいます。曖昧さを残す表現が読者の解釈の幅を広げてくれるのだと紹介しましたが、これこそが矢沢あいさんの作品の醍醐味だと思います。
この作品をたまに読んでみると、やはり涙なしでは読めませんが、本当に素敵な素晴らしい作品に出会えたと今でも思います。矢沢あいさんならではの独特な世界観はとても魅力的で、これからも大事にしていきたい漫画です。